2018年 05月 30日
第49回講談社出版文化賞 ブックデザイン賞受賞 |
第49回講談社出版文化賞 ブックデザイン賞を受賞しました。
ブックデザイン賞選評 選考委員(五十音順・敬称略)
逢坂 剛/鈴木成一/鈴木一誌/南 伸坊/山本容子
以下、講談社出版文化賞 平成30年度要項より
言葉とヴィジュアルのキャッチボール
鈴木一誌
今年度の審査会場には、芦澤泰偉の装幀した本が十四冊ならんだ。内容は多彩で、「講談社ブルーバックス」シリーズから文学や美術論、思想書、さらには『寄生蟲図鑑』まで、各ジャンルのツボを的確におさえて、壮観だ。
芦澤のキャリアは多彩だ。学生運動の余燼が残る時代の大学浪人中、現代美術のコンクールに入賞し、松澤宥に師事しつつ現代美術をこころざしたのち、広告プロダクションで働きはじめる。やがて、松岡正剛にみちびかれて工作舎での不眠不休に近い年月をすごし、あるとき、荒川洋治に出会い、詩集の装幀一三五冊を手がけることになる。菊地信義から助言をもらいながら三十八歳で独立し、のちの交流につながっていく。西部邁との知己は、『発言者』、『表現者』の装幀へと結びついた。
芦澤は、キャリアを現代美術と広告の両極から開始させた。両者の立脚点はちがうが、コンセプトをいかに視覚化するかでは共通する。詩集と小説とではヴィジュアルのありかたはどうちがうのか……。芦澤は、言語─視覚のあいだに入って両者をつなごうとしてきた。そこには、デザインはアートなのか職人芸なのか、との問いも貼り付いている。昨年、ブルーバックスの装幀がリニューアルされた。その際も、言語とヴィジュアルの距離が慎重に測られたはずだ。芦澤作品からは人間的な揺らぎが伝わる。
受賞の言葉
芦澤泰偉
講談社ブックデザイン賞は僕にとって、特別の、気になる存在であり続けていた。そのため毎年、選考日が近づくと、入賞の連絡が来ないか、夕方から気になって仕事も手がつかなかったが、今年はなぜか 選考日を忘れていた。すると「講談社から」とスタッフがメモを渡してくる。僕は「たぶん請求書の計算ミスだろう」と早合点してさっそく電話を入れたら、嬉しい受賞の知らせであった。妻に連絡。すると 彼女は、「長くブックデザインをやって来たで賞」と喜んでくれた。38歳で独立してからちょうと31年目である。確かに長い。
受賞対象作品となったブルーバックスは1991年にデザイン担当 を引き継いだ。それから26年経った昨2017年、マイナーチェンジもしている。白をベースに顔付きを明るくして、若い人から年配者までを意識した。すると売れ行きが伸びたと聞いて嬉しくなった。
なお受賞対象になった本ではないが、西部邁先生の雑誌『発言者』、『表現者』のディレクションと、先生の多くの書籍の装幀がある。その西部先生はこの一月、多摩川で自裁されてしまった。僕にブックデザインへの道筋を付けてくれたのは、美術関係者よりも、西部先生をはじめとした、多くのジャンルにまたがる「言葉の人」たちである。 それは僕の大きな幸せだが、かけがえのないその一人である西部さん に今回の受賞を知らせられないのは、何とも残念でならない。
by ashizawataii
| 2018-05-30 19:46
| その他